179号 続々続々 鬱脱出法

今回(179号)は、「続々続々 鬱脱出法」です。

「本当に苦しいなと思うのは、一年のうち何日だろう? まあ、合計で7日位かな。一年は、365日か366日だから、概ね、1.9%しかない。2倍としたって、たった3.8%だ。するってぇーと、悩み多き日は、一年のうちでも貴重な日なんだ。貴重な日なんだから大事にしないとね。そうか。その貴重な日は有意義にすごそう。貴重な日が自分に訴えかけてくる意味なんかを考えるのもいいかもしれない。貴重な日、かわいいもんだ。・・・・・」

そこで、子ガラスが、かわいい声で、「カァ~~」と相槌をうちました。
「ほら、おカラス様も、そうだ と言っているよ。」

執行停止の申立

  第一審で金銭の支払いを命じる判決を受け、その判決に仮執行宣言が付いていた場合、いったん強制執行を免れるためには、どのような手続をしたらよいでしょうか。


仮執行宣言は、未確定の終局判決に執行力を付与するもので、勝訴者は、仮執行宣言付判決を得た場合には、判決が確定した場合と同様に執行することができます。

強制執行を免れるためには、控訴の提起に伴う強制執行停止の制度(民事訴訟法403条1項3号)があります。

強制執行の停止とは、執行機関が将来に向かって強制執行を開始したり続行することを止める措置です。安易に執行を止めることは許すべきではありませんが、全く執行停止ができないというのでは、後に判決の取消などを得た債務者の保護に欠けるため、暫定的にいったん認められた執行力を奪う制度です。既にした執行処分を取り消す処分である執行処分の取消しという制度もありますが、ここでは強制執行の停止についてだけ説明したいと思います。

 執行停止の申立ては、原則として控訴審裁判所に行いますが、民事訴訟法404条1項において、仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起があった場合において、訴訟記録が原裁判所に存するときは、その裁判所が裁判をすると記載されておりますから、当該場合には、原裁判所すなわち一審裁判所に申立てることになります。

控訴の提起は一審裁判所に控訴状を提出してしなければなりませんし(民事訴訟法286条1項)、執行停止は直ちに求める場合が多いでしょうから、通常は、一審裁判所に、控訴の提起とともに、強制執行停止の申立てをすることになると思われます。

裁判所は、強制執行の停止決定をする場合に担保を立てさせるか否かを裁量で決めることができます(民事訴訟法403条1項)。担保を立てさせる場合、執行停止における担保額について、裁判所は、当該事件の具体的事情及び申立ての理由についての疎明の程度を考慮して妥当な額を決定します。

執行の停止決定を得るためには、原判決の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、又は、執行により著しい損害を生ずるおそれがあることについて、疎明が必要です(民事訴訟法403条1項3号)。

疎明とは、ある事実の存否につき、裁判官が一応確からしいとの心証を得た状態などを言います。裁判官に十中八九間違いないという確信を得させなければならない証明までは必要がありません。

担保を立てる場合において、供託をするには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければなりませんので、注意してください(民事訴訟法405条1項)。


では、強制執行停止決定を得た場合、事実上、一審原告の強制執行の着手も封じる方法はあるのでしょうか。

といいますのは、強制執行停止決定を出す場所と強制執行を申立てる場所は同じ裁判所内だったとしても部又は課などが違ったりしますので、強制執行停止決定を得ていても、強制執行が開始されてしまうことがあるものと考えられるからです。

もちろん、強制執行が開始されてしまった場合でも、既に得ている強制執行停止決定の正本を執行機関に提出すれば、強制執行は停止されます(民事執行法39条1項6号)。

しかし、銀行預金口座などに対して強制執行が開始されてしまうと、一時預金口座が凍結されてしまったり、取引銀行に紛争事実が知られてしまうなど、不都合なことがありうるので、できれば強制執行の開始自体を阻止したいものです。

この点、事前に執行機関に対して、強制執行停止決定を得た旨の上申書を提出することが考えられます。上申書を提出すれば、執行機関が強制執行停止決定が出ていることを把握できるため、事実上、強制執行の開始を阻止できることが期待できます。ただ、東京地裁の債権執行の係の方に確認したところ、まだ事件になっていない段階での上申書の受付はしていないとのことでした。

また、上申書の提出ができないのであっても、執行機関が強制執行の申立てがあった場合に、執行停止決定が出ているかを確認すれば、無駄な強制執行の開始をしないで済むことになりそうです。

しかし、東京地裁では、強制執行の申立てがあった場合に、既に執行停止決定が出ているかを確認する体制はとっていないとのことでした。

さらに、事実上、相手方に強制執行停止決定を得たので強制執行をしないようにとの連絡を取る方法も考えられます。

連絡を受けた相手方が強制執行停止決定が出たことを知った上で、あえて強制執行をしてくる可能性は低いと思われますが、仮に強制執行をしてきた場合には、不法行為による損害賠償請求ができるのでしょうか。

この点、執行停止決定が債権者に送達された後になされた強制執行の申立も当然に違法となるわけではなく、権利の濫用となるものでもないとの裁判例があります(昭和60年2月18日大阪高等裁判所決定)。

この裁判例によれば、不法行為による損害賠償請求はできないこととなりそうです。

しかし、執行停止決定に関する事例ではありませんが、免脱担保が立てられていることを知りながらあえて仮執行免脱宣言が付された判決に基づいて強制執行をしたという事例では、既に免脱担保が立てられていることを知りながら強制執行の申立を行い、執行機関をして強制執行手続をとらせることは、不法行為としての違法性を備えるものと解されるとする裁判例があります(平成4年6月17日東京地方裁判所判決)。

上記裁判例に関する詳細な分析はここではしませんが、執行停止決定の場合に不法行為による損害賠償請求を一切認めないのは妥当な結論ではないと思われます。

従業員の退職後の競業避止義務と雇用

従業員は、退職後に同業他社への勤務や自ら同様の営業を行わない義務(競業避止義務)を負うのでしょうか。

競業避止義務は労働者(従業員)の職業選択の自由を直接制限するものですので、退職した従業員に競業避止義務を課すには明確な根拠が必要です。

では、退職後に競業避止義務を負う旨記載された誓約書や就業規則がある場合、このような誓約書や就業規則はどのような内容のものでも常に有効となるのでしょうか。

退職後の競業避止義務の問題を考える際に重要なのは、企業の営業秘密等の保護と労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)との調整という視点です。

企業がその営業活動を円滑に行うためには、顧客情報や技術上の秘密等の企業秘密が保護されなければいけません。企業としては、企業秘密を知る従業員がライバル企業に転職することは避けたいでしょう。

他方、労働者が自ら築いてきたキャリアを活かして転職しようとすることは自然であり、このような転職活動を保護する必要があります。労働者の転職活動は、職業選択の自由(憲法22条1項)または営業の自由(憲法22条1項)として憲法上保障されています。

この結果、転職を不当に制約する競業避止義務は、公序良俗(民法90条)違反として無効となります。

裁判例を見ると、退職後の競業避止義務の有効性については、①労働者の地位・職務内容、②競業が禁止される職種・期間・地域、③代償措置の有無・内容、④競業行為を禁止する必要性を総合して判断しています。

①に関して、従業員が会社の営業秘密を取り扱い得る地位にあった場合、競業避止義務が有効となる方向に働きます。技術上の秘密を知る中枢技術者であった者についても同様に考えられます。

②に関して、対象職種・期間・地域が限定されていないことは、競業避止義務の効力を否定する方向に働きます。禁止される競業行為の内容・期間・地域等について具体的に限定することが必要です。

③に関して、競業が禁止される期間・地域が限定され、会社の顧客に対する営業のみが禁止されるなど、競業避止義務の内容が限定的なことを理由に、代償措置が講じられていなくても競業避止義務を有効とした裁判例があります(東京地方裁判所判決判平成14年8月30日)。

もっとも、代償措置の存在は競業避止義務の有効性を決する上で重要な要素であるので、金銭支払いなどの代償措置を取ることが望ましいでしょう。

業務委託契約と雇用

前回のコラムでお話ししたとおり、業務委託契約は委託する業務の内容により法的性質が決まり、いわゆる使用従属性が認められる場合には雇用(民法623条)となります。それでは、いかなる場合に使用従属性が認められるのでしょうか。

この点、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)では、使用従属性が認められる「労働者」(労働基準法9条)の判断につき、以下の基準を掲げています。

1 使用従属性に関する判断基準

(1)指揮監督下の労働に関する判断基準

例えば、①仕事の依頼や業務従事の指示等に対して諾否の自由がない場合や、②業務内容及び遂行方法につき委託者の具体的指揮命令を受けている場合などは、指揮監督下の労働として、使用従属性を認める重要な要素となります。

(2)報酬の労務対償性に関する判断基準

例えば、欠勤した場合には応分の報酬が控除され、残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給されるなど、報酬の性格が委託者の指揮監督の下に一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には、使用従属性を補強することになります。

2 労働者性の判断を補強する要素

労働者性が問題となる限界事例(例えば、在宅勤務者など)については、使用従属性の判断が困難な場合があるので、以下の要素をも勘案して総合判断する必要があります。

(1)事業者性の有無

例えば、①受託者が所有する高価な機械・器具を用いて業務を行う場合や、②報酬の額が委託会社において同様の勤務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合、③その他裁判例では、業務遂行上の損害に対する責任を負うことや独自の商号使用が認められている場合などは、受託者に事業者としての性格が強く、労働者性を弱める要素となります。

(2)専属性の程度

例えば、①他社の業務に従事することが制度上制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難であるなど、専属性の程度が高く、経済的に委託会社に従属していると認められる場合や、②報酬に固定給部分がある、業務の配分等により事実上同定給となっている、その額も生計を維持しうる程度のものであるなど、報酬に生活保障的な要素が強いと認められる場合には、労働者性を補強する要素となります。

(3)その他

例えば、①採用・委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であること、②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていること、③労働保険の適用対象としていること、④服務規律を適用していること、⑤退職金制度・福利厚生を適用していることなど、委託者が受託者を自らの労働者と認識していると推認される場合には、労働者性を補強する要素となります。

今日では委託業務の多種・多様化により、上記基準に照らしても当該業務が雇用といえるかは分かりにくい場合もあるので、詳細は当事務所にご相談下さい。

178号 思いやり交渉技法

1.今回(178号)は、「思いやり交渉技法」です。

朝一番の会議がありました。

交渉の相手方の部長様、「このような素晴らしい土地の取引に当たらせていただき、誠に有難いと思っています。有り難うございます。・・・・・・・・・・・」で話が始まりました。

小生「恐れ入りますが、お話しを中断してよろしいですか? 部長様のお話、素晴らしいので感動しました。感謝の言葉から交渉が始まると、穏やかで温かい雰囲気のうちに話し合いがすすみます。それに加えて、Chunk up とChunk down という心理学の技術を使えば、さらに交渉はうまく行きますよ。・・・・・・・・・・」

交渉や話し合いにおいて、相手の提案をバッサリと否定するのではなく、いったん、その労を評価し、感謝の念を表し、しかる後に始めると、双方にとって、もっと有益な方向に行くと思います。相手方との間に信頼関係が生まれるからです。

この方法は、仕事のみならず、夫婦問題、親子問題、学校問題、など全てに応用することが出来ましょう。