共同遺言の禁止について

1 夫婦がともに同一の証書を用いて遺言をする場合、その遺言は有効なものとして扱われるのでしょうか。例えば、同一の用紙に夫婦の連名で「財産Aについては○○に、財産Bについては××に相続させる。」等と記載して、遺言書を作成する場合などが考えられます。

2 この点、民法第975条には「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。」と規定されています。これは、共同遺言の禁止を定めたものです。
共同遺言とは、同一の遺言証書で二人以上の者が遺言をすることをいいます。各自独立した複数の自筆証書遺言が同一の封筒に収められているような場合は、これに当たりません。
このような共同遺言を民法が禁止した理由は、以下のようにいわれています。
① 遺言は、他人の意思に左右されることなく行われなければならない。また、遺言者が自由に撤回できるべきものである(民法第1022条)。しかし、二人以上の者が同一の証書に遺言をしてしまうと、各自の遺言の自由や遺言撤回の自由が制約されてしまう。
② 遺言は厳格な様式行為と言われる(民法第960条)が、共同遺言者の一方の遺言に方式の違反があって無効となるような場合、他方の遺言は有効なのか否かについて問題が生じる。
③ 共同遺言者による遺言がそれぞれの遺言を条件としているようなケースにおいて、一方の遺言者が条件に反したとき、他方の遺言がどうなるのかという問題が生じる。

3 それでは、同一の証書に二人以上の者の遺言がなされていれば、民法第975条に反するとして全部無効となってしまうのでしょうか。まず、形式的には共同遺言のように見えても、一方の遺言部分に方式の違反があるような場合には、その部分は無効であるから、他方の単独遺言として有効となることはないのでしょうか。
この点、AB夫婦が、同一の紙面に「遺産(不動産)の相続は両親共に死去した後に行うものとし父A死去せる時はまず母Bが全財産を相続する」との遺言をし、AB両名の氏名が遺言書に記載されていたケースにおいて、「同一の証書に2人の遺言が記載されている場合には、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である。」と判示した判例があります(最高裁昭和56年9月11日小法廷判決)。

4 また、同一証書に複数の者の遺言がなされている場合であっても、その遺言書が複数枚の用紙により構成されており、各葉を切り離すことによって別々の遺言書と捉えることが可能なケースはどうでしょうか。
この点、遺言書がB5版の罫紙4枚を合綴したもので、各葉毎に共同遺言者Aの印章による契印がなされているが、その一枚目から三枚目までは、A名義の形式のものであり、四枚目は共同遺言者B名義の形式のものであって、両者は容易に切り離すことができたケースにおいて、最高裁平成5年10月19日判決は、「右事実関係の下において、本件遺言は、民法九七五条によって禁止された共同遺言に当たらないとした原審の判断は正当として是認することができる。」と判示しています。

5 では、同一の用紙に遺言が共同で記載されていて別々に切り離すことができず、かつ他に方式の違反などもない場合には、どうなるのでしょうか。
この点、ABの連名ではあるが、Aがすべて単独で作成した遺言について、①当該遺言書を作成することをAがBに話さず、Aが全て単独で作成したものであること、②BはAが当該遺言を作成したことをAの死後まで全く知らず、当該遺言書に自らの氏名が記載されていることも知らなかったこと、③当該遺言書に記載された不動産はすべてAの所有であり、Bが所有あるいは共有持分を有するものはないこと、などを考慮した上で、当該遺言は、一見AとBとの共同遺言であるかのような形式となってはいるが、その内容からすればAのみの単独の遺言であり、Aの自筆証書による単独の遺言として有効であると判示している裁判例があります(東京高裁昭和57年8月27日決定)。

6 上記裁判例の詳細については割愛いたしますが、上記裁判例を見てみますと、同一の証書に二人以上の名義でなされている遺言が共同遺言にあたるか否かについては、単に形式的に見て遺言者の氏名や内容が複数認められるというだけではなく、①遺言作成に対する各共同遺言者の関与の有無、②遺言作成の経緯、③遺言の対象となった財産の権利関係、④遺言の内容や作成に関する各共同遺言者間の合意の有無、⑤遺言内容の相互関連性、などの実質的な面も判断材料となっているように思われます。したがって、一見したところ共同遺言に見えたとしても、常に無効となるわけではなく、一定の場合には有効となる可能性もあると言えます。

7 もっとも、遺言制度は、それぞれの遺言者の最終意思を尊重して、遺言者の死後にその実現を保障するために設けられたものです。そして、遺言者の最終意思を確保し、後々の紛争を未然に防止するため、遺言作成に際しては厳格な遺言方式によるべきことが強く要求されているのです。
ですから、たとえ苦楽をともにしてきた夫婦であったとしても、遺言が無効となるリスクを考えますと、やはり別々に遺言書を作成しておくのがよいでしょう。

181号 求めよ。さらば与えられん??

今回(181号)は、「求めよ。さらば与えられん??」です。

「求めよ。さらば与えられん。」、聖書の有名な言葉です。キリスト、仏陀、その他、突出して優れた方の言葉は真実と思われますが、「求めよ。さらば与えられん。」が真実と思っておられる方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
思うとおりになんでも実現できたら素晴らしいけれど、現実には、思うにまかせないのが人生。だれだってそう思います。
では、キリストは嘘をついたのでしょうか?

1.何でも思うとおりに実現したら、世界は大混乱になるでしょう。「世界の支配者になりたい。」と1億人が思ったらどうなるかは明らかです。

2.そんなことはキリストほどの人物であれば、とっくに承知していたはずです。

3.ここで考えましたのは、「誰に対して」求め、「誰が」与えるのかということです。その「誰」は、いずれも神様なのでしょう。

4.では、「神様、お金下さい。」と求めて、神様がお金をくれるのでしょうか。神様がお金を持って、使っているとは思えません。空中からパッとお金が飛び出してくることはないからです。お金は、人からいただくしかありません。

5.すると、求められた神様は、他の人を介して、お金を動かすしかない。

6.ところが、人間は神様の手足ではなく、自由意思をもっていますから、必ずしも、神様の考えるとおりにはならない。

7.実現してあげようと考える神と、自由意思を持った人との対立が、存在するということになります。

8.ここに、「神による、願望の調整」というシステムが不可欠となります。

9.つまり、社会全体、あるいは、関係者全体のバランスを考えて、神様は希望を実現してくださる、ということになるのではないでしょうか。

10.従って、求めれば、いずれ、実現はする、ただし、実現の時期は神様の調整作業におまかせするしかない、あるいは、神様は、願望の本質を検討して、別の形で実現してくださる、と考えるにいたりました。

今現在、希望が叶えられていないとしても、「あー、今、神様が調整してくれているんだなー」と思うと、気持ちが安まるばかりか、より、有り難みを感じるようになってきます。

180号 ウナギvピラニア

1.今回(180号)は、「ウナギvピラニア」です。

ウナギを台湾から日本に輸出する際、1ケースに一匹、ピラニアを入れるという話が新聞に出ていました。長旅のウナギの生存率を高めるためとのことです。
ウナギがピラニアと同室することによって、緊張感が高まり、それが、生存率のアップにつながるとのことです。
「多少のストレスは人生のスパイス!」との信念を強固にしてくれるお話しでした。

179号 続々続々 鬱脱出法

今回(179号)は、「続々続々 鬱脱出法」です。

「本当に苦しいなと思うのは、一年のうち何日だろう? まあ、合計で7日位かな。一年は、365日か366日だから、概ね、1.9%しかない。2倍としたって、たった3.8%だ。するってぇーと、悩み多き日は、一年のうちでも貴重な日なんだ。貴重な日なんだから大事にしないとね。そうか。その貴重な日は有意義にすごそう。貴重な日が自分に訴えかけてくる意味なんかを考えるのもいいかもしれない。貴重な日、かわいいもんだ。・・・・・」

そこで、子ガラスが、かわいい声で、「カァ~~」と相槌をうちました。
「ほら、おカラス様も、そうだ と言っているよ。」

執行停止の申立

  第一審で金銭の支払いを命じる判決を受け、その判決に仮執行宣言が付いていた場合、いったん強制執行を免れるためには、どのような手続をしたらよいでしょうか。


仮執行宣言は、未確定の終局判決に執行力を付与するもので、勝訴者は、仮執行宣言付判決を得た場合には、判決が確定した場合と同様に執行することができます。

強制執行を免れるためには、控訴の提起に伴う強制執行停止の制度(民事訴訟法403条1項3号)があります。

強制執行の停止とは、執行機関が将来に向かって強制執行を開始したり続行することを止める措置です。安易に執行を止めることは許すべきではありませんが、全く執行停止ができないというのでは、後に判決の取消などを得た債務者の保護に欠けるため、暫定的にいったん認められた執行力を奪う制度です。既にした執行処分を取り消す処分である執行処分の取消しという制度もありますが、ここでは強制執行の停止についてだけ説明したいと思います。

 執行停止の申立ては、原則として控訴審裁判所に行いますが、民事訴訟法404条1項において、仮執行の宣言を付した判決に対する控訴の提起があった場合において、訴訟記録が原裁判所に存するときは、その裁判所が裁判をすると記載されておりますから、当該場合には、原裁判所すなわち一審裁判所に申立てることになります。

控訴の提起は一審裁判所に控訴状を提出してしなければなりませんし(民事訴訟法286条1項)、執行停止は直ちに求める場合が多いでしょうから、通常は、一審裁判所に、控訴の提起とともに、強制執行停止の申立てをすることになると思われます。

裁判所は、強制執行の停止決定をする場合に担保を立てさせるか否かを裁量で決めることができます(民事訴訟法403条1項)。担保を立てさせる場合、執行停止における担保額について、裁判所は、当該事件の具体的事情及び申立ての理由についての疎明の程度を考慮して妥当な額を決定します。

執行の停止決定を得るためには、原判決の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと、又は、執行により著しい損害を生ずるおそれがあることについて、疎明が必要です(民事訴訟法403条1項3号)。

疎明とは、ある事実の存否につき、裁判官が一応確からしいとの心証を得た状態などを言います。裁判官に十中八九間違いないという確信を得させなければならない証明までは必要がありません。

担保を立てる場合において、供託をするには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければなりませんので、注意してください(民事訴訟法405条1項)。


では、強制執行停止決定を得た場合、事実上、一審原告の強制執行の着手も封じる方法はあるのでしょうか。

といいますのは、強制執行停止決定を出す場所と強制執行を申立てる場所は同じ裁判所内だったとしても部又は課などが違ったりしますので、強制執行停止決定を得ていても、強制執行が開始されてしまうことがあるものと考えられるからです。

もちろん、強制執行が開始されてしまった場合でも、既に得ている強制執行停止決定の正本を執行機関に提出すれば、強制執行は停止されます(民事執行法39条1項6号)。

しかし、銀行預金口座などに対して強制執行が開始されてしまうと、一時預金口座が凍結されてしまったり、取引銀行に紛争事実が知られてしまうなど、不都合なことがありうるので、できれば強制執行の開始自体を阻止したいものです。

この点、事前に執行機関に対して、強制執行停止決定を得た旨の上申書を提出することが考えられます。上申書を提出すれば、執行機関が強制執行停止決定が出ていることを把握できるため、事実上、強制執行の開始を阻止できることが期待できます。ただ、東京地裁の債権執行の係の方に確認したところ、まだ事件になっていない段階での上申書の受付はしていないとのことでした。

また、上申書の提出ができないのであっても、執行機関が強制執行の申立てがあった場合に、執行停止決定が出ているかを確認すれば、無駄な強制執行の開始をしないで済むことになりそうです。

しかし、東京地裁では、強制執行の申立てがあった場合に、既に執行停止決定が出ているかを確認する体制はとっていないとのことでした。

さらに、事実上、相手方に強制執行停止決定を得たので強制執行をしないようにとの連絡を取る方法も考えられます。

連絡を受けた相手方が強制執行停止決定が出たことを知った上で、あえて強制執行をしてくる可能性は低いと思われますが、仮に強制執行をしてきた場合には、不法行為による損害賠償請求ができるのでしょうか。

この点、執行停止決定が債権者に送達された後になされた強制執行の申立も当然に違法となるわけではなく、権利の濫用となるものでもないとの裁判例があります(昭和60年2月18日大阪高等裁判所決定)。

この裁判例によれば、不法行為による損害賠償請求はできないこととなりそうです。

しかし、執行停止決定に関する事例ではありませんが、免脱担保が立てられていることを知りながらあえて仮執行免脱宣言が付された判決に基づいて強制執行をしたという事例では、既に免脱担保が立てられていることを知りながら強制執行の申立を行い、執行機関をして強制執行手続をとらせることは、不法行為としての違法性を備えるものと解されるとする裁判例があります(平成4年6月17日東京地方裁判所判決)。

上記裁判例に関する詳細な分析はここではしませんが、執行停止決定の場合に不法行為による損害賠償請求を一切認めないのは妥当な結論ではないと思われます。

従業員の退職後の競業避止義務と雇用

従業員は、退職後に同業他社への勤務や自ら同様の営業を行わない義務(競業避止義務)を負うのでしょうか。

競業避止義務は労働者(従業員)の職業選択の自由を直接制限するものですので、退職した従業員に競業避止義務を課すには明確な根拠が必要です。

では、退職後に競業避止義務を負う旨記載された誓約書や就業規則がある場合、このような誓約書や就業規則はどのような内容のものでも常に有効となるのでしょうか。

退職後の競業避止義務の問題を考える際に重要なのは、企業の営業秘密等の保護と労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)との調整という視点です。

企業がその営業活動を円滑に行うためには、顧客情報や技術上の秘密等の企業秘密が保護されなければいけません。企業としては、企業秘密を知る従業員がライバル企業に転職することは避けたいでしょう。

他方、労働者が自ら築いてきたキャリアを活かして転職しようとすることは自然であり、このような転職活動を保護する必要があります。労働者の転職活動は、職業選択の自由(憲法22条1項)または営業の自由(憲法22条1項)として憲法上保障されています。

この結果、転職を不当に制約する競業避止義務は、公序良俗(民法90条)違反として無効となります。

裁判例を見ると、退職後の競業避止義務の有効性については、①労働者の地位・職務内容、②競業が禁止される職種・期間・地域、③代償措置の有無・内容、④競業行為を禁止する必要性を総合して判断しています。

①に関して、従業員が会社の営業秘密を取り扱い得る地位にあった場合、競業避止義務が有効となる方向に働きます。技術上の秘密を知る中枢技術者であった者についても同様に考えられます。

②に関して、対象職種・期間・地域が限定されていないことは、競業避止義務の効力を否定する方向に働きます。禁止される競業行為の内容・期間・地域等について具体的に限定することが必要です。

③に関して、競業が禁止される期間・地域が限定され、会社の顧客に対する営業のみが禁止されるなど、競業避止義務の内容が限定的なことを理由に、代償措置が講じられていなくても競業避止義務を有効とした裁判例があります(東京地方裁判所判決判平成14年8月30日)。

もっとも、代償措置の存在は競業避止義務の有効性を決する上で重要な要素であるので、金銭支払いなどの代償措置を取ることが望ましいでしょう。