今回は、「[交渉テクニック]小さなサインを見逃すな。」です。

               弁護士米川耕一


1 仕事上の交渉において、相手方のちょっとした言葉の端々に現れたことや小さな動作が実は極めて重要なサインを発していることがあります。
 交渉事においては、そのサインの読みとりが勝敗を決する時もあるのです。


2.  弁護士の交渉事を例に挙げてみましょう。
 
 (例1)こちらが100万円の貸金返済の請求をしており、相手が借りていないと主張しているとします。
 和解の場になって、相手の弁護士が20-30万位なら支払います、と言って来ました。
 このことはふたつの意味を持っています。
 ひとつは大きい方の数字である30万円は間違いなく出すということであり、もうひとつは「位」という表現からして、何とか和解したい、そのためには実は30万円を超えてでも支払うとの意味です。
 このような不安定な提案をしてくること自体、私に言わせれば弁護士として失格です。
 この例で私が相手方の弁護士でしたら次のように言うでしょう。
 証拠を検討の上、大丈夫と判断したら、「数字の出し合いをしても時間の無駄ですから最終案を出します。これ以上は無理です。20万円!」これを気迫を持って言うのです。
 当然心の底では最終案などとは思っていません。
 相手がすり寄ってきたら少し譲歩してあげればよいのです。
 そして、その気迫をバック・アップする為に、万が一和解交渉が決裂した結果、訴訟が継続し法律事務所として赤字になってもやり抜くぞという覚悟が必要になります(少額な訴訟の場合は、訴訟が継続して最終的な判決まで行くと、どの法律事務所も赤字になります。)。

 
 (例2)極端な例として、乱暴な人と電話で交渉を始めたときに、いきなり乱暴な言葉遣いをして来ても、相手方が、例えば、「ちきしょう。携帯の調子がわるい。この野郎。」といって携帯電話をバンバン振ったりなどと他のものに八つ当たりする態度が出てきたらそれはなんとかこちらと正常な交信をしたいとの気持ちの表れであると同時にこちらの機嫌を損ねないように気にしているわけですから主導権をとることは実は容易なのです。
 表面上の言葉の乱暴さにびっくりしてはいけません。


3. さて、以上を逆の立場で考えると、相手に悟られるようなサインを絶対に出さないように注意しなければならないことになります。
 中国の古典「中庸」は、「隠れたるよりあらわるるはなく、微かなるよりあらわるるはなし。」と微細なことほどかえって露見しやすいと喝破しています。


4. 企業経営において、価格交渉、営業交渉など交渉事は山ほどあるわけですが、まずは誠意を持つことを基本とし、その上で、相手の行動を子細に観察し、その行動の意味を常に熟慮するように心懸ければ、交渉の達人になれるのです。
                         以 上











           




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