陰と陽
弁護士米川耕一 2001年6月6日
今回は、「陰陽を感じて生きる。」です。
あるイタリア料理店のシェフがこのようなことを言っていました。「お客が入っているときは元気が出ますが、客足が遠のくと将来大丈夫だろうかととても不安になります。」と。この気持ちはサービス業の経営者に共通したものでしょう。私自身もそのようなことは幾度となく経験してきましたが、その経験を通して熟慮した結果、今では次のように考えています。
お隣の国、中国には、万物は陰と陽の組み合わせで発生し、常に変化をしているという発想があります。古典の名著「荘子」には荘子の妻が亡くなったときのエピソードが記されています。荘子の友人が荘子の家にお弔いに行ったところ、荘子は嘆くことは嘆いたが、サッと気持ちを切り替え、楽しく歌を歌っていました。友人の疑問に対して、荘子は、生は元々無から生じ、死はその無に帰ることにすぎない、すなわち、死ですら変化の一態様にすぎず、なんら悲しむべきものではないと答えました。いわんや、それ以外のことでなにを落ち込む必要があろうか。
イタリア料理店の例に戻れば、料理・サービス・内装に問題がないはずなのに、お客が来ないのはそのお店自体の問題ではなく、お客は言いませんが、お店サイドでは如何ともしがたい他の事情という場合もあるわけです。
例えば、お客が体調を崩した、お客が金欠になった、暑さが続いた、カップルが喧嘩をしたのでフランス料理どころではない。このような場合だってあり得るのですから、陰の状態の時には、あえて動かず、今は陰の状態にあるから忍耐しようと腹をくくり、その代わりに、忙しいときに出来ない他の前向きなこと、例えば、将来の新店舗の構想、仕入先の再検討、新メニューの考案をすることなどに頭を使うのです。
このようにして忍耐を続けるうちに陰が転じて陽となる時期が必ず来ます。その時には、陰の時期に工夫したことや研究したことが生きてきて、陽どころか、大陽となるわけです。
例えば、メニューに工夫を凝らしておけば、メニュー選びの楽しさに惹かれて今まで以上に多くのお客がやってきます。
ただし、如何ともし難いと思われることが、実は、創意工夫で解決出来る場合も多いことに注意が必要です。お客が体調を崩したときの為に薬膳メニューを考える、金欠のお客のために食材を工夫して、安くてとても美味しいメニューを考える、暑いときには食欲増進のメニューを出す、など陰の状態から早期に脱出できるような工夫をする余地がある場合がとても多いのです。これらの工夫ができれば大大陽につながります。
陰と陽のリズムを常に考えながら経営の工夫をすることによって、明るく楽しい会社経営を進めていってください。灯台の足下は暗くとも、遠くは明るく輝いています。
以 上