米川耕一法律事務所
債権放棄に税金がかかるの?   

 「債権放棄」という言葉をニュースで良く耳にしますが、単純に債権放棄(債務免除)してもらえれば倒産を免れることができるのでしょうか?
 弁護士保坂光彦 2001/06/25

実は話はそう単純ではないようです。

 法人が債権放棄を受けた場合、その額は「益金」に算入されます(法人税法22条A)つまり税金がかかるということです。

 例えば、(ここでは話を簡単にするため、その年における他の「損益」が無いこととします。)倒産の危機に瀕した企業が1億円の債務を1000万円に(残りは免除)してもらった場合、仮に法人税のj実効税率を40%とすると、この9000万円の債務免除に対して3600万円もの税金がかかってしまうことになります。

 1000万しか払えない(しかもこれは通常一括ではなく分割払いで払える限界)という企業がさらに3600万円もの税金を支払えるわけもありません。このままでは企業再建のための債権放棄が結果として企業を倒産に追い込むというなんとも皮肉な結末を迎えることになってしまいます。
 
 では、ニュースなどで話題になっている企業はどうしているのでしょうか?キーワードは「繰越欠損金」です。

 やや曖昧な言い方になりますが、税法上過去5年以内に生じた欠損金(赤字)について繰越欠損金控除を受けることが認められています(但し青色申告法人に限られます。法人税法57条)。
 これがなにを意味するかと言いますと、簡単に言えば債権放棄により発生する債務免除益を上回る繰越欠損金(累積赤字)があれば税金をかけられないですむということです。
 
 テレビで報道されている企業なども繰越欠損金(累積赤字)の範囲内であれば税金の心配もいらないと言う訳なのです(もっとも当然のことながら控除した部分の繰越欠損金は無くなってしまい今後は控除することができなくなります。見方によればこれも一種の「資産」処分と言えます。)
 
 もちろん青色申告法人以外であっても、債権放棄を受けた年に本業等で生じた損失分で債務免除益を吸収することはできますが、単年度分で莫大な債務免除益を吸収するには限界があるということを考えますと債権放棄の場面における繰越欠損金控除の有用性がわかると思います。
 
 ちなみに上で述べたような話は民事再生法などの法的手続内における債権カットにも当てはまります。

 従って、債権者の合意が得られさえすれば債権カット率は高いほど良い・・・ということにはならず、債務免除益課税も念頭においた上で最も有利な再生計画を策定することが求められることになります。

 以上を実務上の注意点としてまとめますと、「債権放棄を受ける際には税金にも気をつける、特に繰越欠損金が無いまたは少ない会社が慌てて債権放棄の交渉(あるいは調停)などをしても債務免除益課税によりかえって逆効果になる場合がある。」と言うことになると思います。



〜追補〜
 上記は法人が債権放棄を受ける場合を想定していますが、個人が任意整理や(個人)民事再生手続などで債権放棄(カット)を受ける場合にも債務免除益は発生し、原則的に債権者からの贈与として、事業に関するものなど債務の内容によっては事業所得ないし一時所得として扱われることになります。

 そうすると、ここでも債務免除益課税が問題となりますが、資力を喪失して弁済することが困難な部分については課税しない旨の規定(相続税法8条但書、所得税法基本通達36−17)がありますので、任意整理や民事再生手続が行われている局面においては特別の事情がない限り課税を受けることにはならないと解されます。














             






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