担保執行法制の改正      

  弁護士永島賢也 2003年8月4日

 平成15年7月23日、東京都港区台場のホテル グランパシフィック メリディアンにて東京弁護士会夏期合同研究会が開かれ、その合同討議の場で担保執行法制の改革について研究発表が行われました


 担保執行法制の改正は多岐にわたりますが、この法案は、多少の修正が施されたうえ、今国会を通過しておりますので、すみやかに対応することが必要になります。


 そこで、簡単に、今回の改正のエッセンスを取り出してみましょう。


 1 滌除制度は廃止され、新たに抵当権消滅請求制度が設置されます。

 新制度では、抵当権実行通知は不要になります。

 また、増加競売・増加買受義務制度は廃止されます。


 2 いわゆる短期賃貸借保護の制度はなくなります。

  これは重要な改正です。

 同制度が執行妨害の契機になりやすいこと、現行の短期賃貸借が長期賃貸借と区別されて保護されることや、競売の手続の進行と短 期賃貸借の更新時とのタイミングによる結果の差が、合理的に説明しにくくなっていることなどが改正の理由とされています。


 抵当権に対抗できない賃借権は終了し、占有権原を失います(不法占拠者となります)。

 賃貸借契約は終了し、買受人には承継されませんので、敷金返還請求権も承継されません。

 また、場合により、6ヶ月の間、建物の引渡が猶予されます。

 もっとも、引渡が猶予されているといっても建物を使用していることに変わりはありませんので、その間の建物の使用の対価は請求されます。この請求がなされたにもかかわらず、支払いをしない場合、6ヶ月間の引渡の猶予期間 はなくなります。

(上記研究発表時の参考資料より抜粋)
 395条 
 1 抵当権者に対抗することを得ざる賃貸借に因り抵当権の目的たる建物の使用又は収益を為す者にして左に掲げたるもの(以下建物使用者と称す)は其建 物の競売の場合に於て買受人の買受の時より六箇月を経過するまでは其建物を買受人に引渡すことを要せず。
  一 競売手続の開始前より使用又は収益を為す者
  二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後に為したる賃貸借に因り使用又は収益を為す者
 2 前項の規定は買受人の買受の時より後に同項の建物の使用を為したることの対価に付き買受人が建物使用者に対し相当の期間を定めて其一月分以上の支払を催告し其相当の期間内に履行なき場合には之を適用せず



 3 抵当権の効力の及ぶ果実の範囲の変更


 4 雇用関係に基づいて生じた債権の一般先取特権の範囲の変更


 5 債務者不特定での執行文付与


 6 売却のための保全処分の要件緩和・公示保全処分の導入


 7 不動産強制競売での内覧実施命令制度の新設


 8 差押禁止財産の範囲の変更


 9 扶養義務等に係る金銭債権に基づく強制執行の特例の新設


 これは、夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用分担義務、子の監護に関する義務、扶養義務、に係る各定期金債権について、その期限の到来後弁済期が到来する 給料(要するに将来分)その他の継続的給付にかかる債権を差し押さえることができるというものです。


 弁済期が到来する毎の反復的な執行申立の煩を救済するものといえます。


 10 担保不動産の収益執行制度の新設


 11 財産開示制度の新設


 これは、簡潔に述べれば、債務者を裁判所に呼び出して、その財産を開示させる制度です。


 金銭の支払債務が確定判決で認められているにもかかわらず、悪質な財産隠しをして支払おうとしない者に対するいわばペナルティともいえるでしょう。


(上記研究発表時の参考資料より)
 第197条
 執行裁判所は、次のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本(...例外あり・クレサラ被害防止...)を有する金銭債権の債権者の申 立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を解する ことができないときは、この限りでない。
 (...中略...)
 第198条
 1 執行裁判所は、前条第一項又は第二項の決定が確定したときは、財産開示期日を指定しなければならない。
 2 財産開示期日には、次に掲げる者を呼び出さなければならない。
  一 申立人
  二 債務者(債務者に法定代理人がある場合にあっては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあってはその代表者)
 第199条
 1 開示義務者(...中略...)は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産について陳述しなければならない。
 2 前項の陳述においては、陳述の対象となる財産について、第二章第二節の規定による強制執行又は前章の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要があるものとして最高裁判所規則で定める事項を開示しなければならない。
 3 執行裁判所は、財産開示期日において、開示義務者に対し質問を発することができる。
 4 申立人は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産の状況を明らかにするため、執行裁判所の許可を得て開示義務者に対し質問を発することができる。
 (...中略...)


 
なお、罰則もあります(206条)。
 

 もちろん、今回の法律改正は、担保執行法制にとどまりません。


 法曹はもとより、一般企業や個人の方々(家事事件に関する人事訴訟法も改正されます)にも関わりの強い法律の改正が次々となされております。


(次)



  Copyright © 2003 kenya Nagashima , all rights reserved.








         









































米川耕一法律事務所
担保執行法制の改正