2002年10月24日 代表弁護士 米川 耕一
1.今回は「マイナスの強化」です。
ある人が裁判で1,000万円の債務名義(=判決書)を得ました。
その人はその債務名義を携えて毎日被告のところに支払請求に行きましたが、被告は客観的に見ても完全に破綻しており、支払能力は全くありません。
当然のことながら、
「
お金がありません。申し訳ありませんが、お支払いできません。」
という言葉をこの債権者は毎日聞く結果となりました。
それからしばらくしてその方も破産してしまいました。
2.ここで視点を変えてみましょう。
例えば、初めて自転車に乗る時は、何回も反復・継続して次第にうまく乗りこなせるようになってゆきます。
なにも考えなくとも自転車に乗れるように脳内の神経が次第に強化されて行くわけです。
3 さて、冒頭の例は、この自転車の例と全く逆に「お金がない。支払えない。」といったメッセージを脳の神経細胞が次第に受容するようになり、債権者自らが「自分にはお金がない。自分は支払えない。」と無意識のうちに思いこむこととなり、その深い思いこみが自らも破産という結果を招いてしまったのです。
これを私は「マイナスの強化」と呼んでいます。
昔から「悪いものに近づくと取り憑かれる。」と言われている背後には、このようなプロセスがあるのです。
4.加えて、取り立てがうまく行かないと、自然と「憎い。くやしい。」といったマイナスの感情も強化されて行きます。
願望を達成するには情感が込められなければならないのですが、冒頭の例ではこのような悪しき情感も込められており、いっそう、自分自身の転落のスピードを速める結果となってしまっているわけです。
5.私が、客観的に取り立てのできないことは捨て置くことをお勧めするのは、単に無駄なことはお止めになった方がよいというだけではなく、以上のような配慮があるのです。
6.物事がうまくゆかない時にはどうしても悪いことを考えてしまいがちですが、如上の脳の中のプロセスを覚えておかれると間違いなく自己制御に役立つでしょう。
以 上
(次)
Copyright © 1999-2002 yonekawa koichi , all rights reserved.