77号
2003年9月12日 代表弁護士 米川 耕一
今回(77号)は「涙を誘うカラスのお父さん」です。
朝、駅に急ぐ道すがら、道路をカラスが1羽歩いていました。
カラスにしては羽根の色つやが悪く、頭の毛は薄くなり、目を見ると涙で潤んでいました。
近頃、我が家の近辺ばかりか、事務所の周りでもカラスの声を聞くことが少なくなり、たまに聞こえても力無く「カア〜〜〜」というだけです。
東京都の捕獲作戦で数が相当減ったのでしょう。
そして、冒頭のカラスは美しい妻と可愛い子を同時に失ってしまったのでした。
前日、あんなに楽しくソーセージを分け合って夕食を共にした家族はもうこの世にはいないのです。
天涯孤独になってしまったカラスのお父さんの姿には涙を誘うものがあります。
カラスのお父さんは、いつも家族に言っていました。「東京都の捕獲作戦があるからみんな気をつけよう。なるべく目立たないようにひっそりと生きよう。」と。
ところが、元気な子ガラスはそんな注意を聞いて等いられませんでした。
大好きなドーナツを見つけては自転車の買い物かごからサッと持ってきてしまいます。
ふと気が付くと、やけに美味しそうで大きなドーナツがありました。
なぜか大きなカゴの中に。
ドーナツめがけて飛び込んだ子ガラスは、見事、わなに引っかかり、カゴから二度と出られなくなってしまいました。
泣き叫ぶ子ガラスを助けようとカゴに入った母カラスも当然出られなくなってしまいました。
お父さんは何日も何日も妻子を待ちましたが二度と会うことは出来ませんでした。
「ドーナツ」は、欲望の対象、「お父さんの注意」は理性の声、「カゴ」は制裁です。
そして、「ドーナツ」が美味しそうに見えれば見えるほど、理性の声、制裁の脅威は力を弱められてしまいます。
それも自分の都合の良い屁理屈をつけて弱められるのです。
例を挙げましょう。
架空の融資話という詐欺に引っかかる事件が後を絶ちません。
これは、目の前にぶら下がった融資というドーナツに目がくらみ、第三者が見れば明らかに不審な人物でも「見かけは悪いが中身は悪い人ではない。」などと自分で自分を欺いてしまう結果なのです。
そのような場合、一歩立ち止まり、「この話が嘘であったらどのような結果になるだろうか。」「冷静な第三者に相手方を観察してもらおう。」などとチェックをしてみることです。
哀れなカラスのお父さんにならないために。
以 上
(次)
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