不真正連帯債務
不真正連帯債務
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弁護士 永島賢也 平成18年4月21日
法律論のひとつとして、多数当事者の債権債務関係というテーマがあります。
これに関し、民法自身は、427条以降に、分割債権・債務、不可分債権・債務、連帯債務という3種類を規定していますが、そのほか、解釈上、不真正連帯債務という種類も認められています(判例も認めています)。
連帯債務の規定(432条)をみると、数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる、と定められています。
例えば、AとBが、C銀行に対し、100万円の連帯債務を負担している場合、C銀行は、Aに100万円を請求することもできますし、Bに100万円を請求することもできます(もちろん、合計で100万円より多く支払ってもらうことはできません。)。
また、Aに70万円を請求することもできますし、Bに30万円を請求することもできます。
C銀行にとっては、100万円の支払につき、Aの資力と、Bの資力の両方をあてにできます。
したがって、AのみがCに100万円を負担している場合よりも、AとBが連帯債務を負担している場合の方が、Cにとって、より確実に100万円の支払がなされることを期待可能です。
つまり、債権の効力が強まっているとみることができます。
連帯債務には、相対的効力の原則が働き(440条)、連帯債務者のひとりについて生じた事由は、他の連帯債務者に対しては効力を生じません。
もっとも、この原則には、例外があり、絶対的効力が生じる(他の連帯債務者に影響する)事由が定められています。弁済、履行の請求(434条)、更改(435条)、混同(438条)、相殺(436条)、免除(439条)、時効(439条)です。
例えば、CがAに対し、債務の履行を請求すれば、Bに対しても履行の請求をしたことになります(434条)。
ところが、法律が「連帯」債務であると規定していても、債権の効力を更に強めるため、弁済(代物弁済、供託、相殺を含む)に相当する場合を除いて、絶対的効力が生じる事由を制限する解釈が認められています。これを、不真正連帯債務と呼びます。
例えば、719条は、数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が「連帯」してその損害を賠償する責任を負うと定めていますが、これは、不真正連帯債務であるとされています。
判例も、719条の損害賠償債務はいわゆる不真正連帯債務であって連帯債務ではないから、その損害賠償債務については連帯債務に関する民法437条(免除)の規定は適用されないと述べています(最高裁平成6年11月24日判決)。
そのほか、大阪地裁平成3年5月27日判決は、特許権の侵害に関する訴訟(専用実施権侵害等事件)において、特許権を侵害する製品を製造・販売した会社の損害賠償債務と、その製品を購入して使用した会社の損害賠償債務とを不真正連帯の関係にあると述べています(知財集23−320)。
事案を簡潔に述べますと、Aが、BとCに対し、特許権の侵害による損害賠償を請求したところ、製造販売したBには損害として金9438万3866円を、購入したCには実施料相当額の損害として金51万円を認めました。
そして、Cの支払債務は、Bの支払債務といわゆる不真正連帯の関係にあると述べています。
ただ、主文は、「BはAに対し、金9438万3866円及びこれに対する昭和○○年○月○日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。」、「CはAに対し、金51万円及びこれに対する昭和○○年○月×日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。」となっています(以下、遅延損害金部分は省略して述べます)。
特許権の侵害が、製品の製造販売によってなされる場合、製造行為や販売行為が不法行為の要件を充たす限り、それぞれが特許権侵害行為となります。
上記の例では、Bの行為とCの行為がそれぞれ特許権の侵害行為と認められます。
そうすると、BとCとの間に共同不法行為が認められるかどうかに大きな差が生じます。
というのは、共同不法行為が認められないのであれば、Aは、Bには9438万3866円、Cには51万円を請求できるにすぎませんが、共同不法行為であれば、その総額9489万3866円(94383866+510000)を、BとCの両者に請求できます。Cは、51万円を支払うだけでは足りませんから、大きな違いです。
単に、製造と販売との関係があるのみで、これに不真正連帯を関係を認める結論をとるのは妥当かどうかという問題になります。
この点、両者の間に製造会社と販売代理店関係などの何からの共同関係を認めたうえで共同不法行為を認める方が妥当といえるかもしれません。
いずれにせよ、上記大阪地裁判決において、Cは、51万円を支払えば足りるのでしょうか。
仮に、Cが、51万円を支払った場合、不真正連帯債務関係においても認められる弁済の絶対的効力により、Bの債務は、51万円だけ減額されるのでしょうか。
それとも、Cは、51万円の範囲においてのみ、Bと不真正連帯債務関係にあるのでしょうか。
そうすれば、Cは、51万円を支払えば、それ以上の債務を負わなくてすみます。しかし、そうだとしても、Cが51万円を弁済すれば、やはりBの債務は51万円だけ減少するのでしょうか。
結局、Aは、最大9438万3866円の弁済を受けられるにとどまるのでしょうか。それとも、9489万3866円(94383866+510000)の支払を受けられるのでしょうか。
判決の主文では、Aは、Bから9438万3866円、Cから51万円、合計9489万3866円の支払が受けられそうですが、判決の理由の中にそれらが不真正連帯の関係にあると述べられているので、どのように理解すればよいのでしょう。
Cにとっては、51万円で済む問題なのか、9000万円以上も支払わなければならないのか、重要な問題となります。
以 上
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