患者紹介システム
日本医師会の患者紹介システムと個人情報
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弁護士 永島賢也 2006年1月10日
平
成18年1月6日の日経新聞によると、日本医師会は、加盟医師の間で、患者の紹介をしあうシステムを同月内から運用し、インターネット上で紹介状(診療情報提供書)のデータのやりとり等を行うそうです。
問題になるのは、個人情報保護法23条です。
同条は、原則として、患者本人の同意を得ないまま、診療情報を他の病院(医療法人)などの第三者に提供することを禁止しています。
すなわち、システムに加盟している医師の間で、患者情報をやりとりすることは、第三者提供に該当し、原則、当該患者の同意を得なければならないことになります。
し
かしながら、そもそも、患者は、傷病の治療のために来院しており、必要があれば、他の専門医の治療を受ける機会を得ることは、むしろ、患者の合理的な意思に合致するもので、また、社会的にみても、医療機関(医師)のスムーズな連携は望まれるところです(医療法1条の4第3項)。
現
実問題として、他の医療機関との連携や、外部医師意見・助言を求めるなどの場面では、個人情報保護法の規定する「原則」と「その例外」とは、全く、正反対の結果となってしまっているといえます。
例えば、他の医療機関の専門医に、意見や助言を求めないでほしいと述べる患者の方が例外的といえます。
厚生労働省のガイドラインは、黙示の同意論により、この問題をクリア(逆になってしまった原則と例外を、もう一度、ひっくり返そうと)しようとしています。
患者への医療の提供に必要な利用目的の範囲内で、「他の医療機関等との連携」、「外部の医師等の意見・助言を求めること」、「他の医療機関等からの照会があった場合にこれに応じること」などの利用目的を院内掲示し、あわせて、このような利用に同意し難いと考える場合、あらかじめ同意を得るように求めることができることが明示されている場合、黙示の同意があったとされます。
つまり、個人情報保護法23条の求める同意がなされたと法律構成するのです。
そ
こで、上記のシステムに加盟する医師等は、患者への医療の提供に必要な範囲で、患者を紹介し合うシステムに加盟し、加盟医師間でデータのやりとりをする旨を掲示し、黙示の同意を得る必要があると考えます。
な
お、個人情報は、秘匿の文脈だけで語られるものではなく、取得、管理、廃棄という個人情報の取扱いに関するすべての段階で検討する必要があります。
たとえば、「機密」とはいえない公知になっている個人情報であっても、利用目的を公表せずに取得することはできず、管理上、漏えいが起こることも許されません。
また、秘密保持義務を負っている者に対し個人情報を提供する場合も第三者提供に該当します(本人の同意が原則必要となります)。しばしば、「機密保持契約があるので、特に、別途、個人情報の取扱いに関する覚書を交わす必要はないのではないか」、という発言がなされます。
しかし、個人情報について、その対象は、秘密情報より広く、その取扱いは、秘匿・管理よりも広いといえます。
上
記の問題は、個人情報保護法が制定される際、医療や金融、情報通信の分野では個別法での対応が検討されることになっていたところ、実際は、ちょうど、今から1年前ころ、個別法の制定が見送られることになってしまった(国民生活審議会・個人情報保護部会)ことにあるという見方ができます。
「ガイドラインで対応可能なので、個別法は不要」ということであれば、行政の策定したガイドラインが、国会の制定した法律の範囲内にとどまらなければならないという拘束を受けることになり、窮屈ではあります。
い
わゆる電子カルテの共同利用については、同法23条4項3号の要件が必要になり、共同利用者の範囲などを本人の容易に知りうる状態に置く(WEBへの掲載など)ことになりますが、問題は、共同利用者の範囲を拡大する場合です。システムへの新規加入者が生じるなど、追加的に共同利用者が増加する場合に、煩瑣な問題が生じるおそれがあります。というのは、同条5項が、共同利用の範囲の変更について、定めていないからです。
関連情報
患者情報保護Q&A230
・
個人情報保護法
・
過失(医療)
以 上
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