DIPファイナンスに関する課題

 2002年1月15日弁護士永島賢也

 現在のような経済情勢において、DIPファイナンスを促進させて企業の再建を図って行くことは必要不可欠といえますが、いくつかの問題点をクリアしなければならないのも事実です。
 

 我が国では、民事再生の申立をしたことをもって、「事実上倒産」というレッテルを貼られてしまう風潮があります。これは、DIP(再建企業)に対する融資に慎重になる十分な理由となります。


 他方、債務者側も、金融機関に対し、資金提供を超えて人材供給などあらゆる支援を期待してしまう風潮もDIPファイナンスの敷居をかえって高くしてしまっているのかもしれません。



 次に、情報開示です。同法の運用として、原則として全件監督委員を選任し、公認会計士の補助を受けて財務状況を開示することは非常に有益だと思います。


 DIPファイナンス契約に際し、手続や交渉の進捗状況の報告義務に関する条項をいれる必要もあります。


 キャッシュフローを監視するため、振込指定の特約を結びモニタリングができる管理口座を設定することが考えられます。


 
 更に、インセンティブ(動機付け)が必要です。再生手続開始後の融資は共益債権となり(119条5項)、再生債権に優先して、随時に返済を受けられます(121条)。


 ですが、金融機関は、上述のとおり、事実上倒産というレッテルを貼られた再建企業にあえて融資を行うというリスクに挑戦しているのですから、金利・手数料(コミットメント)的にうまみがなければ、結局、DIPファイナンスはビジネスとして成り立たなくなってしまうおそれがあります。


 換言すれば、仮に株主代表訴訟が提起されたとしても、経営判断として反論できるだけの有利な材料が必要になります。



 また、法改正が必要になる論点となりますが、DIPファイナンス債権の優先性を高め、超優先性を付与するなどの工夫もありうるところです(米国連邦倒産法364条参照)。


 多少、専門的になりますが、民事再生法は、一般優先債権も随時弁済を受けられるため、共益債権との優先順位を確定できません。


 通常に弁済がなされているのであれば、特に問題は生じませんが、そうでなくなった場合が問題です。


 万一、牽連破産に移行した場合、現行法では、共益債権は、破産手続では財団債権となります(同法16条4項)。


 つまり、労働債権等一般優先債権は優先的破産債権にとどまり、DIPファイナンス債権はこれに優先することとなります。


 法改正によって、更に、DIPファイナンス債権に超優先性を付与するとすると、今度は他の財団債権との優劣関係が問題になってきます。


 とすると、破産法51条の改正も視野にいれなければなりません。



 同じく、法改正が視野に入る分野としては、デットエクイティスワップです。これは、一部債権放棄を受けるとともに株式を提供するものですが、再生企業は増資しなければなりません。


 しかし、民事再生法には増資に関する特別規定はありませんので、場合によっては、元経営陣など反対株主の抵抗が予想される得るところです(閉鎖会社の第三者割当増資の株主総会特別決議・商法341条の11の2)。


 また、銀行の株式保有に関するいわゆる5%ルールもデッドエクイティスワップには慎重になる要因といえます(現在、緩和傾向にあります)。


 
 更に、また、上述のとおり、再生計画認可後監督委員が監督を継続している期間(188条2項)は再生手続継続中ということになりますので、認可後のDIPファイナンス債権についても、破綻先債権として開示債権に該当しそうです。


 また、金融検査マニュアル上は、分類債権(3、4)に該当することになりそうです(引当金の問題が生じます)。


 これについては、プロジェクトファイナンス債権と同様に債務者による区分ではなく回収の危険度に応じて分類することも考えられるところです。


 いわば、再生プロジェクトに対するファイナンスとみるわけです。


 このような点を更にクリアすることによって、DIPファイナンスが、実は、大変有利なビジネスチャンスであるとの認識が育って行けばよいのではないかと思います。


 


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米川耕一法律事務所
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