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2002年3月11日 弁護士鈴木謙吾

ある会社の取締役が辞任しようと考えたとき、その辞任届は誰に対して提出すべきでしょうか。

また、取締役ではなく代表取締役が辞任しようとする場合には誰宛にすべきでしょうか。
法的には辞任の意思表示の相手方が問題になります。

考え得る相手方としては、@会社、A会社の代表者である代表取締役、B会社の所有者の代表機関である株主総会、C取締役を構成員とする取締役会等いくつかあります。
そもそも取締役は会社と委任契約を締結しています(商法254条3項)。
代表取締役も同様です。
従いまして、委任者である会社に対して、辞任届を提出することになりそうです。実際にも、辞任届の宛名を「○○会社御中」という体裁にしてしまうことも十分あり得るでしょう。

この点、極めて参考になる裁判例として、東京高裁昭和59年11月13日判決があります。
同裁判例によれば、「@取締役辞任の意思表示は代表取締役に対してすることを要する。A代表取締役が辞任する場合には、他に代表取締役がいる場合にはその代表取締役に対してすることを要し、B他に代表取締役がいないときには取締役会を招集して取締役会に対してなすことを要する。」とされています。
@及びAに関しては、特に問題ないでしょう。
代表取締役が会社を代表して辞任の意思表示を受領する権限があると考えられます。

ただ、Bについては注意が必要です。
取締役の一人に辞任届を提出するだけでは足りず、取締役会を招集した上で、取締役会という合議体に対して辞任の意思表示を到達させる必要があります。
その後の紛争が十分予想される場合には、具体的に「○○会社取締役会御中」という宛先にしておくべきでしょう。

ちなみに、辞任者が翻意した場合には、辞任の意思表示を取り消さなければなりません。
その取消の意思表示を到達させる相手方についても、当然上記裁判例の通りとなります。
他の機関に辞任の意思表示を取り消す旨の意思表示をしても有効にはなりませんので、十分注意することが必要です。

これらの「意思表示の相手方」の問題は、円満辞任の場合にはまず問題になりません。
何らかの権力闘争等の非常事態時に起こりうる問題です。
従いまして、辞任に関する権力闘争に巻き込まれた場合等には、相手方から余計なクレームを受けないためにも、意思表示の相手方には十分留意した上で行動すべきであろうと考えます。
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以 上