会社分割 その2
米川耕一法律事務所
会社分割
〜その時あなた(労働者)は?〜

  2002年2月6日 弁護士保坂光彦

4 では、上記のように非常に重要な要素である「主として従事」はどのように判断されるのでしょうか?


  まず、該当する事業部門だけの仕事をしているのであれば「主として従事」と言うことが出来ます。


 では、他の事業部門の仕事も並行して行っている場合(もっぱらその事業部門の仕事に従事している時間、仕事量などから判断される)。


 総務部などのいわゆる間接部門に従事している場合も同様にどの事業部門に関する事務をどの程度行っているかと言う点から判断されます。もし事業部ごとに総務を行う者がいる場合には、「主として従事」ということになります。


 なお、「主として従事」するか否かは実質判断であるため、判断が会社と従業員との間で分かれることも出てくるかと思います。


 その場合には可能な限り会社と従業員との協議で解決できれば望ましいのですが、もし、お互いの判断が一致しない場合には最終的には「地位確認の訴え」の裁判において判断されることになるかと思います(この場合には上記@やCの事例であっても分割計画書の内容を覆す余地があります。)。


 ちなみに、「主として従事」するか否かの判断は原則として分割計画書等の作成時において判断されることになりますが、作成前後の一時的な期間だけその事業に携わったり逆に休職している場合、あるいは分割計画書作成後に「主として従事」することになる(逆にしないことになる)のが明らかな場合などは、実質的に判断されることになります。


5 いずれにしても、労働者は元の会社に留まるか、新しい会社に労働契約を承継させることによって従前と同じ給与や待遇を維持することが出来るようになり(従前、営業譲渡方式で為されていたときには労働契約不承継条項が双方の会社で合意されることもあり、ひどい場合にはその事業部門全員解雇という事例もあったそうです。)分割を理由とする解雇や労働条件の変更は認められません。


6 ちなみに、労働者が労働者としてではなく「債権者」として保護されるという場合があります。


 すなわち会社債権者は、会社分割について異議を述べることにより、弁済又は相当な担保の供出を受けることが出来ます(商法374条ノ3、100条3項)。


 よって労働者が未払い賃金債権や退職金債権などを会社に対して有している場合には、これと同様に会社分割に対して異議を述べることにより一定の保護を受けることが出来ます。



7 なお、分割後の会社が存続出来るかどうかと言う根本的な点については、残念ながら、分割される双方の会社について「債務履行の見込み」及びその理由を開示しなければならない(商法374条ノ2第1項3号)とされているように、法律の建前上、整理倒産目的のような泥船会社を作ることは許されていないと考えられますが、分割以降のことについては何も担保されていません。


 会社経営の成否自体は神のみぞ知り、法律の守備範囲を越えているということでしょうか。

 
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