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弁護士 桜井滋則 2002年12月10日
(遺産分割等の後)
遺産分割の協議が成立した場合または家庭裁判所の審判などによって遺産分割がなされた場合、その成立内容に基づいた分割がなされます。
遺産分割には、遡及効があるため、遺産分割協議書所定の相続預金は、相続開始時にさかのぼって各相続人に帰属することとなります。
この場合、分割の方法としては、相続預金の名義書換や、相続預金の払い戻しという方法によることになり、遺産分割協議もしくは家庭裁判所の審判を経ている以上、特に問題がないと言えます。
具体的な手続きとして、相続届(支払請求書もしくは名義変更請求書)の提出を要求され、相続預金の支払もしくは名義変更がなされることになります。
(遺産分割前はどうか)
遺産分割前の相続預金の払い戻しはできるのでしょうか。
判例の考えによると、金銭債権は可分債権であるとされ法律上当然に分割されると解されています。
この考え方からすると本来各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継しているはずで、理論的には、自分の相続分については単独で払い戻し請求ができるはずです。
しかし、銀行実務では、相続人全員から相続届(支払請求書もしくは名義変更請求書)の提出を要求されるのが一般的です。
必要書類として、被相続人の除籍謄本、戸籍謄本、共同相続人全員の戸籍謄本ほか、共同相続人全員の印鑑証明が要求されます。
金融機関としては、問題がないようにという配慮から限定的な運用をされていると思われますが、実際の局面において、共同相続人間で遺産の分割などにおいて対立がある場合には、印鑑証明書や署名押印が相続人全員から集めることができないので、結局手続きを進めることはできず相続預金の払い戻しは受けられないと言えます。
もっとも、究極的には銀行実務の問題なので、法定相続分や相続人の範囲が確定されていて、非常に難しいですが遺言や遺産分割協議の不存在の確認がとれるようなケースであれば、応じてくれる余地はあるのではないか思います。
(葬儀費用などについて)
葬儀費用は、相続財産を管理するのに必要な費用として、相続財産の中から支払われるべきものであると位置づけられています。
そのような趣旨の裁判例もあり、相続財産から葬儀費用が出されても法的には問題がないと言えます(実務上、葬儀費用はまずは香典から支払い、その不足分あれば相続財産の中から支払い、さらに不足分があれば相続分に応じて相続人が負担するということとされています。)。
しかし、前述のように相続預金の引き出しについては、原則として相続人全員からの相続届(支払請求書)が銀行などの金融機関から要求されるので、実際には、相続人全員からの署名・押印が間に合わないことにより、葬儀費用を支払うことができない状態が生じかねません。
そこで、銀行実務では、一部の相続人からの請求であっても、便宜的に相続預金の一部の払い戻しを認めてくれることがあります。
この場合にも、一般的に金融機関からは、必要な書類として被相続人の死亡を証する戸籍謄本及び除籍謄本と共同相続人全員の戸籍謄本、請求者の印鑑証明、葬儀費用の証拠書類などが要求されます。
本来遺産分割などが終わるまで、原則として取引が停止され払い戻しがなされないはずの相続預金が、葬儀費用などの場合には払い戻しがなされる可能性があるという点は、注意すべき点とも言えるでしょう。
また、この便宜的な一部の支払は、銀行実務として、他の相続人から異議が出にくい場合になされている措置ですので、他に被相続人が納付すべき所得税等のためにも、利用されることもあるようです。
(残高証明書の請求について)
相続開始日に相続預金が全体としていくらあるのか、知りたいときには、残高証明書を請求します。相続預金の引き出しの場合とは異なり、この請求は、法的には相続財産の保存行為として位置づけられる余地もあり、請求者単独でも請求が可能です。
銀行実務でも、一般的に相続人全員からの依頼ではなくても、その内の1人またはその代理人から残高証明書の依頼があれば発行されています。
なお、必要な書類としては、一般的には被相続人の除籍謄本及び戸籍謄本等、請求者の戸籍謄本、請求者の印鑑証明書などが必要となります。
もっとも必要な書類は、ケースによってもしくは金融機関によって異なりますので、請求する際には確認したほうがよいでしょう。
以 上
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