弁護士 永島賢也 2003年4月18日
著作隣接権の名称は、英語のneighbouring rightsに由来するといわれます。
ところが、国際的な著作権に関する主な考え方として、英米法系の考え方(Anglo-American approach)は、むしろ、著作隣接権を認めないとする思潮が強く、いわゆる大陸法系の考え方(Continental approach)と鋭く対立しています。
どのように鋭く対決しているかというと、大陸法系では、創作者(creator)である著作者(author)を中心において、著作権(author's right)を捉えようとしますが、英米法系では、むしろ、コピー(copy)を中心において、コピー可能なものを排他的に利用する権限を著作権(copyright)として捉えようとします。
もっとも、著作権をcopyright(コピーライト)と表現する場合、いつも、かような違いが念頭におかれているとは限りません。
単にコミュニケーション手段としてcopyrightという言葉が使われているのが、むしろ普通のことであろうと思われます。
上記の両者の考え方の違いを若干誇張して説明するとすると、大陸法系は、創作者を中心として解釈するので、「著作者」は実際に創作する者となりますし、創作が精神的な作業であるとすると、「著作者」は自然人に限られることになり、「著作物」も精神的な創作物ということになるでしょう。
他方、英米法系は、コピーを中心として解釈するので、コピーすることが可能なものであれば、それを「著作物」と呼ぶことに躊躇する必要はなく、精神的な創作物には限られないことになるでしょう。したがって、例えば、音を録音して固定した製作物についていえば、それが複製の対象となることは明らかですので、「著作物」に該当するものと自然に理解することができるでしょう。
一般論としていえば、我が国の著作権法は、同法15条のような規定はあるものの、基本的に大陸法系のアプローチを採りながら、英米法系のアプローチの影響を色濃く受けているといえるのではないでしょうか。
このような著作権に関する考え方の背景までみてみると、著作隣接権の隣接(neighbouring)という言葉には、大陸法系のアプローチからは著作権とは別物という意味合いが、他方、英米法系のアプローチからは著作権と同様のものという意味合いがそれぞれ込められているのかもしれません。
もっとも、近年、著作隣接権(neighbouring rights)の語を用いずに、関連権(related rights)の語も用いられます。
これも、著作隣接権としてのそれ自体の保護に消極的な立場から、既成の用語の使用を敢えて避けようとする傾向と見ることもできます(米国など)。
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