ドメイン名に関する紛争について



            弁護士永島賢也 2001年4月11日

 商標法には、1商標1出願の原則というものがあります(商標法6条)。これは、ひとつの商標登録出願では、ひとつの商標しか出願できないことを指しております。もっとも、同一の商標に関するものである限り(1商標1出願主義)、1出願で多区分にわたる商品、役務を指定すること自体は妨げられておりません(平成8年改正6条2項)。これにより出願人は区分ごとに願書を作成する必要はなくなりました。この原則に違反している場合拒絶理由となりますが、違反の態様が多様なので、その態様によって取り扱いが異なっています。例えば、商品の区分のみが記載されているときは、補完命令の対象になります(5条の2第2項)。また、形式的な瑕疵に該当するとされているため、仮に、間違って登録されたとしても、異議申立理由、無効理由にはなっておりません。

 商標は、商品・役務(サービス)について使用する標識ですから、商標と商品・役務とは、密接な関係にあります。そこで、出願は、商品または役務を指定して行われます。この指定は、政令で定めるところの商品及び役務の区分にしたがわなければなりません。
  
 また、外国における商標登録の効果は国境をこえないという意味で、商標は国ごとに分離された存在といえます(属地主義・商標法2条3項2号)。もっとも、属地主義は本質的な要求ではなく、国際的な工業所有権法に関するパリ条約が国際的な法の統一を断念して各国の自主立法にゆだねたという消極的な結果であるともいえるようです(桑田三郎・国際商標法の諸問題)。

 ところで、ドメイン名には、しばしば、登録商標と同様のものが使用されます。ドメイン名とは、インターネット上でコンピュータやユーザーを識別するための数字の列(IPアドレス)に、人にも覚えやすいようつけられた名前です。ちなみに、本サイトのドメイン名はyonekawa-lo.comです。

 そうすると、国ごと、区分ごとにそれぞれ成立する商標が、あるドメイン名と同一または類似するケースはしばしば生じ得ることとなります(権利衝突型)。あるいは、著名な商標ないし企業名につき無関係の第三者がドメイン名を取得し、高額な対価で買取りを求めるなどの濫用が心配されます(居座り型・サイバースクワット)

 特に我が国においては、登録商標でなくとも、不正競争防止法によって商品等表示について一定の要件のもと保護されておりますので、商品等表示についても保護を拡大させる必要があります。

 この点、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は、「商標その他の表示」にまで拡大して、JPドメイン名紛争処理方針を定め、2000年11月10日より実施しております。そして、その紛争処理機関として工業所有権仲裁センターが認定されております。これは、裁判外紛争処理機関としてのいわゆるADRです。

 同方針は、登録者が、JPドメイン名紛争処理手続に応じなければならない紛争として、申立人から

1 登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること

2 登録者が、当該ドメイン名の登録についての権利または正当な利益を有していないこと

3 登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されていること

がいずれも主張された場合を掲げています。

 これは、上記「居座り型」についてその取り扱いを定めているといえます。

 もっとも、これは、いわば登録者とJPNICとの契約です。
 したがって、その保護範囲は、必ずしも、商標法・不正競争防止法(あるいは不法行為法)によって保護される範囲と同一ではありません。

 更に、同方針によると、当該センターによる手続とは関係なく、裁判所に対して出訴できるとされております。当該センターのパネルが登録の取消または移転の裁定を行った場合でも、その通知後10日以内に裁判所に出訴すれば裁定の実施は留保されます。

 思うに、申立人と登録者との間には直接の契約関係がありませんので、裁判所に出訴された場合、果たしてJPNICの紛争処理方針を適用して原告と被告との間の紛争を処理できるのか問題になりうるところです。

 また、商標法・不正競争防止法を適用して紛争処理を行う場合、事前になされた裁定との齟齬も生じ得ます。(もっとも、仲裁センターがENE的な機能を発揮することは期待できます)。

 そもそも、不正競争防止法では使用の差止を求めるのが限度で、移転請求までは無理です。商標法に基づく請求においては、商品・役務の区分があることで問題が複雑になりえます。

 商標については、国境を軽々とこえるインターネットに性質に鑑み、並行輸入と同様の問題も生じ得ます。すなわち、外国の商標権者がインターネット上のショッピングモール等で商品の広告を行う場合、我が国の商標権者が自己の商標権に基づいて日本国内での広告を差し止めるようとするケースも全くあり得ないことではないと思います。

 そうだとすると、「居座り型」について、他者の商標ないし一定の要件をみたした商品等表示につきドメイン名の移転・取消という効果が生じることを定めた法律の制定が必要なのかもしれません。もっとも、権利衝突型については、不正競争防止法等との法条競合の問題も生じ得るところです。

 また、ドメイン名紛争を解決する機関として、裁判所設置型のADR(東京地裁の調停部のようなもの)を設置するという選択肢もあり得るところかもしれません。ドメイン名訴訟もある意味で専門訴訟といえる部分があります。




 それでは、現在まで、上記仲裁センターにおいていかなる裁定が行われてきているのかみてみることにします。

 同センターのホームページ(事件)によると、
(1)「goo.co.jp」、
(2)「itoyokado.co.jp」、
(3)「sonybank.co.jp」、
(4)「icom.ne.jp」
について移転を命ずる裁定が出され、うち(2)については裁定結果が実施されております(4月11日現在)。
 (1)は、移転を命ずる裁定の後、出訴がなされたため移転は実施されておりません。
 (3)は、登録者が手続中に出訴し、かつ、裁定の中止を求めましたが、裁定手続は中止されず、移転する旨の裁定がでました。
 (4)は、登録者によって答弁書が提出されておりません。しかしながら、沈黙したことによって事実を認めたということにはできませんので(民事裁判における擬制自白のような効果は生じない)、裁定判断がなされました。このケースは、一見、居座り型ではなく権利衝突型にも見えるのですが、当該パネルは、賢明にも登録者に対し意見照会を促して手続保障的な問題にも十分配慮したうえ、登録者の消極的対応やその他の事情を斟酌して、居座り型(不正目的)であることを肯定しております。
 出訴されたケースについては、今後、その行方を見守りたいと思います。




 その後、「icom.ne.jp」については、裁定結果が実施されました。http://www.ip-adr.gr.jp/




 mp3.co.jpは、登録移転の裁定後、出訴されております。
(次)


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米川耕一法律事務所

ドメイン所有権確認請求却下判決




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ドメイン名紛争
 裁定内容を争う場合、請求の趣旨として「原告は、被告との間で本件ドメイン名の登録を移転する義務のないことの確認を求める」という確認訴訟を提起することが考えられます

 そのうえで、紛争処理方針のパネル手続による救済の要件が合理的かつ相当なものであることを前提として、登録者は、ドメイン名の移転登録を受けるに当たって、紛争処理方針に従った処理が行われることについて同意していると法律構成を行い、そうだとすると、登録移転要件に該当する事実が認められる場合には、登録者は、当該裁定に従ってドメイン名の登録を相手方に移転する義務を負うものといいうると考えられます。

 かように直裁に、紛争処理方針に基づき、裁判所に対して紛争解決を求めることもできるのかもしれません。