米川耕一法律事務所
ライプニッツ

2001年8月14日 弁護士永島賢也

ライプニッツといえば、微積分法を発見した数学者(1646−1716)のことを思い出すのが普通なのかもしれません(実は、ニュートン(1642−1727)が先だったらしいですが・・・)。


 しかしながら、訴訟など紛争事件の中で(とりわけ交通事故訴訟において)、ライプニッツという言葉が出てくるときは、以下に出てきますライプニッツ係数のことを指していることがほとんどです。

 例えば、交通事故の後遺症により労働能力が一部失われた場合などの損害賠償額の算出方法のひとつとして、収入に一定の労働能力喪失率を乗じて、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数を更に乗じて、逸失利益の現価を算定します。

 例えば、症状が固定したときの年齢が50才で年収500万円の男性のサラリーマンが傷害を負い、後遺症により労働能力が35%低下した場合、5000000×0.35×11.2740=19729500と計算されます。この11.2740が労働能力喪失期間(この場合50才から67才までの17年)に対応するライプニッツ係数です。



ライプニッツ係数は、中間利息を控除する計算を行うときに使用します。例を掲げながら具体的に見て行きましょう。

 仮に、1年後にちょうど500万円になるためには、今、いったいいくら必要なのかと考えてみます。訴訟を前提に考えているので、利率は、現在の銀行の預金利息ではなく、民法404条により民事法定利率(5%)で計算してみます。

 計算すると、今476万1904円が手許にあれば、1年後には5%の利息がついておおよそ500万円となります。見方をかえれば、1年後に500万円をもらうことができる価値を現時点に引き直せば476万1904円となります(4761904×1.05≒5000000)。

 同じように、2年後に500万円もらえる地位の現在価値は、453万5147円です(4535147×1.05×1.05≒5000000)。

 同様、3年後に500万円もらえる地位の現在価値は、431万9187円です(4319187×1.05×1.05×1.05≒5000000)。

 そこで、毎年500万円ずつ3年間もらえる地位の現在価値は、1361万6238円となります(4761904+4535147+4319187=13616238)。



ところで、ライプニッツ係数はこれらの計算の中のどこにでてくるのでしょう?
 仮に、1年目についていえば、500万円と、1年後に500万円になる476万1904円との比率をとってみます。500万円に何をかければ476万1904円になるかということですが、それは0.95238095です(5000000×0.95238095≒4761904)。この0.958095がライプニッツ係数(1年・現価)です。

 では、2年目はどうかというと、500万円と、2年後に500万円になる453万5147円との比率をとってみます。500万円に何をかければ453万5147円になるかということですが、それは0.90702948です(5000000×0.90702948≒4535147)。

 同様に、3年目は、0.86383760(5000000×0.86383760≒4319187)です。

 そうすると、毎年500万円ずつ3年間もらえる地位の現在価値は、それらを足し算することになりますから、
(5000000×0.95238095)+(5000000×0.90702948)+(5000000×0.86383760)≒13616238
となります。

 この式の500万円をカッコから外に取り出すと、5000000×(0.95238095+0.90702948+0.86383760)
となります。


 カッコ内の各ライプニッツ係数(現価)を足し算すると、2.72324803となります。

 すなわち、毎年500万円ずつ3年間もらえる地位の現在価値は、500万円にこの2.72324803をかければ計算できることになります。

 そこで、ライプニッツ係数には、現価を2年分足したもの、同じく3年分足したもの、同じく4年分足したもの、という形式でライプニッツ係数の年金現価表というものが作成されています。この年金現価表の係数のことをいわゆる「ライプニッツ係数」と呼んで、しばしば利用します。要するにライプニッツ現価数をそれぞれ加算していったものがライプニッツ年金現価表です。

 ライプニッツ年金現価表には、3年=2.7232と記載されていますので、単純に年収(例えば500万円)にこの数字をかければよいわけです。これでずいぶん計算の手間が省けます。

 すなわち、毎年500万円ずつ3年間もらえる地位の現在価値は、500万円に3年のライプニッツ係数(年金現価)をかければ求められます。
 5000000×2.7232=13616000



 ところで、現在価値(現価)を算出する際、いったい、いつの時点を現価とすればよいのでしょうか。


 症状が固定して後遺症が残ることが明らかになった時点(医師の診断書に症状固定の時期が記載されます)を現時点として計算するのが合理的といえます。そうすると、後遺症に関する損害賠償の遅延損害金の起算点は固定日とするのが合理的です。


 他方、もし、交通事故が起こった日から遅延損害金を請求するとすれば、現時点とは交通事故の日といえます。もっとも、交通事故の日から症状が固定するまでは後遺症が残ることが確定していませんので、この間の数値を算入することは不合理といえます。


 つまり、症状固定日を現価とする場合そのときから遅延損害金が発生し、遅延損害金を交通事故の日から請求するとすれば現価は当該事故日現在としなければ辻褄があいません。症状が固定して初めてわかる後遺障害の損害額について、症状が固定する以前から遅延損害金が発生すると考えることは、いわば、時間を遡って利息を発生させてしまうことになり不合理だからです。


 具体的な計算方法は簡単です。最初の男性サラリーマンの例に戻りますと、症状固定日の年齢が50才で年収500万円、労働能力喪失率が35%、交通事故から症状固定まで5年かかった場合とします。
 5000000×0.35×{(22年のライプニッツ係数)−(5年のライプニッツ係数)}
すなわち
 5000000×0.35×(13.1630−4.3294)
 5000000×0.35×8.8336=15458800
 ライプニッツ係数年金現価は個々の現価を加算したものですから、22年分から5年分の年金現価のライプニッツ係数を差し引けば、事故後6年目から22年目までの17年間分の金額を計算できます。

 
 そうだとすると、不法行為の日からの遅延損害金の請求を行っている原告(被害者)に対して、裁判所が後遺症の賠償について現価の時を、交通事故の日とするのか、症状固定時にするのか釈明を求めるとすれば主張内容が明確になってよいと思います。



5%

 民法所定の利率年5%で計算することに対しては批判があります。というのは、現在の超低金利時代に5%の利息がつくことを前提に計算することは多少現実離れしているといえるからです。


一定性

 年収額が一定であることが前提です。年収額が毎年異なるとライプニッツ係数(年金現価)では誤差が生じますので、毎年の中間利息を控除した金額を積み上げて計算する方が計算としては正確といえます。


(次)


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ライプニッツ
< 関連判例
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東京高裁平成13年6月13日判決

 この判決は、交通事故被害者の逸失利益を算定する際の中間利息の控除の割合について、低金利の状況下にあっても、民事法定利率の
年5%を採用するのが相当であると判示しました。
 
 現行法は、破産法46条5号、会社更生法114条、民事再生法87条1項1号などをみても、将来の請求権の原価評価に当たっては、法的安定および統一的処理の見地から、一律に法定利率による中間利息の控除をすることが相当であると考えているものということができ、その合理性は首肯できないものではないとしています。
 また、交通事故訴訟の統一的処理という観点も含めて判断しています。